上場ゼネコン53社の平成22年度中間業績
平成22年4-9月期の決算発表が一巡したことを受けて、上場ゼネコン53社の平成22年度中間業績について別表の通り集計を行った。別表は53社を連結売上高順に並べたものである。
決算月の異なる「20.福田組」と「51.金下建設」は22年6月中間期、は22年3月中間期、「52.工藤建設」は21年12月中間期を集計対象としている。 受注高以外は連結ベースの数値を使用した(ただし、「18.髙松コンストラクショングループ(CG)」は受注高も連結ベース、反対に連結決算を作成していないン」、「45.第一建設工業」はすべて単体数値を用いている)。
なお、営業利益、経常利益、純利益の前期比欄の「-」は前年同期と損益が逆転して比較できないことを示し、期に続いて赤字であることを示す。
◎売上高
前期は「1.鹿島建設」と「2.大成建設」の単体受注高がともに1兆円の大台を割り込むなど、各社の受注不振が深刻化したが、当中間期は工事進捗により連動して売上高を大きく落とした会社が目立った。 一方、3月期決算企業は前期より「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号 平成19年12月27日)が適用され、前期新たに着手した工事契約からは全面的に工事進行基準で完工高を計上することとなった影響が本格化し、従来保守的な基準で完工高を計上してきた一部の会社は増収に転じた。 53社トータルでは4兆9,178億円と前年同期の5兆7,310億円より14.2%減少した。
◎営業利益
売上高が落ち込む一方、利益は改善傾向が鮮明。53社トータルで1,212億円と前年同期比74.6%も増加した。 これはそもそも前述の通り、工事進行基準による収益計上が浸透し、上期と下期の利益の偏り自体が平準化されつつあることがベースにあるが、さらにいくつかの要因が重なっている。 つまり、自民党政権下で編成された景気対策の補正予算により前期発注された工事の利益率が高かったことや、想定されたような資材価格の高騰がなく安定していたことも大きかった。 さらに22年10月に羽田空港4本目の滑走路が開業したが、この竣工時(同年8月)には見通し以上の利益が確定し、「14.東亜建設工業」、「22.東洋建設」、「33.若築建設」などマリコン各社には強い追い風が吹いた。 反対に、大型リストラによるコスト削減を実施した「7.五洋建設」、「9.西松建設」、「37.大末建設」なども増益に転じた。
◎経常利益
営業利益と同様に、改善基調。53社トータルで1,075億円と前年同期比66.1%増加した。 ただし、営業利益と経常利益の差額(つまり営業外収支の赤字額)は107億円で、前年同期の47億円から60億円拡大した。
◎純利益
53社トータルで586億円となり、前年同期比157.5%増と大きく伸びた。経常利益の増加に加え、不良債権、リストラ、繰延税金資産取崩しなどの処理が一巡した格好。特別損失では「33.若築建設」が金融機関への返済資金捻出のため、関連会社・佐藤工業株式を売却して60億円の特別損失を計上した例が目立った程度だった。 反対に「9.西松建設」のように財務リストラの過程で資産売却の加速により特別利益を計上した例もあった。
◎有利子負債・キャッシュ
前期末と比較して、営業キャッシュフローの赤字などによる有利子負債の増加と、キャッシュ(連結キャッシュフロー計算書での「現金及び現金同等物」)の減少が同時に起きているのは、設」、「8.三井住友建設」「23.飛島建設」った。 有利子負債の53社トータルは3兆0,712億円と前期末比6.0%減少、一方キャッシュのトータルは1兆3,584億円と同8.8%減少で、差し引きしたネット有利子負債は1兆7,128億円(同3.7%減)全体として民間受注の低迷や工事の小型化などで立替資金需要が減少していることに加え、不動産事業での土地仕入れも抑制傾向にあり、金融債務圧縮の流れは続いている。
◎単体受注高
業績の先行指標だが、公共工事、民間企業の設備投資がいずれも低迷する中、苦戦する会社が目立った。53社トータルでは3兆8,184増加組各社の状況だが、極度の不振だった前年同期からの反動で12.3%増に転じたが、通期計画は前期比14.4%増のため、決して好調というわけではない。「6.戸田建設」はライバルに比べて価格面でも積極姿勢が目立つという声を聞く。競争力の高さを評価する向きもある。「7.五洋建設」間組」、「14.東亜建設工業」も海外での受注が国内の不振をカバーした格好。「23.飛島建設」マンション市況の回復が追い風になった面がある。 前期に続いて通期受注高が計画の2,900億円(前期比7.1%増)をクリアできるか注目される前期末に無理をした反動もあり、前年同期比19.2%減と厳しい折り返しとなった。
◎完成工事総利益率
工事の「質」を示す指標。全社平均で9.2%と前年同期を1.0ポイントも上回った。 選別受注の効果が浸透してきた上、受注時の想定より鋼材など資機材価格が下落に転じたことが効いている。これが営業利益回復の主因となった。 ただし、個別にみると「23.飛島建設」、「24.錢高組」、「48.森組」、「50.佐田建設」など2~3%台の低水準にあえぐ企業もある。
◎自己資本比率
財務体質の安全性を表す指標だが、全社平均は30.2%と前期末より2.1ポイント上昇し、ついに30%の大台に乗った。前期末より日経平均株価は15%下落し、有価証券の含み損益は悪化したにもかかわらず、多額の純利益の発生でカバーしたことになる。 最小は「9.三井住友建設」の8.4%。一桁は同社のみとなっており、資本増強策が注目されるが、同社はアナリスト説明会や決算補足資料を作成しないなど準大手にしてはIRの消極的姿勢が目立ち、方向性が見えにくい。
◎DEレシオ
有利子負債への依存度を示す指標で、多くのゼネコンが中期経営計画などで目標値を掲げているが、全社平均は1.0倍と前期末から0.1ポイント改善した。自己資本が増加した一方、有利子負債も減少が進んだ。 2.0倍以上は「1.鹿島建設」(2.1倍)、「5.長谷工コーポレーション」(2.3倍)、「25.(2.2倍)、「37.大末建設」(2.9倍)、「43.南海辰村建設」(2.9倍)、「44.徳倉建設」(2.1倍)、「48.森組」(2.0倍)、「52.工藤建設」(3.7倍)の8社。 なお、レポート中では有利子負債からバランスシート上の現金預金を差引いた「ネットDEレシオ」を用い、より実態に近い有利子負債依存度を算出している。
◎まとめ
これまで見たとおり、足元の収益は一部を除いて回復傾向にあり、上期だけで利益の通期予想をクリアした会社も現われた。ただし、各社下期の見通しは慎重姿勢を崩しておらず、業績予想の上方修正は23年2月の第3四半期決算発表時まで見送るようだ。こうした中、足元で破綻リスクを抱えるのは一部の低格付企業に絞られているのが現実である。
しかし、業界には火種がいくつかある。
ひとつは海外工事の問題。 アルジェリア公共事業省発注のアルジェリア東西高速道路建設工事は当初契約では平成22年1月17日が工期だったが、悪天候、治安悪化、資材調達難、度重なる設計変更・追加工事、特有の軟弱地盤、イスラム圏ならではの交渉の難しさなどいくつもの逆境に直面し、を延長したが、結局それでも工事が終わらなかった。
現在は新たな工期の設定や工事代金の増額、出来高払いの早期開始を巡って協議を進めているが、工事の進捗率はおよそ7割という段階でこう着状態に陥っている。 もともとの受注金額はで、施工を請け負っているのは「1.鹿島建設」(37.5%)、「2.大成建設」西松建設」(15%)、材調達の伊藤忠商事と協力業者の建設」(5%)からなるJV。
新たな工期を平成24年1月とすることでJVスポンサーである鹿島とアルジェリア公共事業省との交渉が進んでいる模様だが、この件で前期一定の損失を計上した西松が新たに「事業等のリスク」として追加損失発生の可能性に言及している通り、2年もの工期延長により費用が相当額に膨らむことは確実で、JV各社は損失発生が避けられない情勢。最終的な損失額はJV出資比率に応じて分担することになるが、ふたを開けて見れば各社の経営を揺るがす事態ともなりかねない。 また、前期話題になったドバイメトロの件でも、鹿島がJVへの出資を拒否しており、スポンサーである「4.大林組」との間でトラブルとなっている。さらに、大成はカタールの新ドーハ国際空港建設工事でも多額の損失発生リスクを抱えているといわれ、まだまだ海外プロジェクトの問題は尾を引きそう。
二つ目の火種は退職給付債務の問題。 中期経営計画の下で再建中の「25.淺沼組」は22年10月から退職金制度を改定した。
現役社員は確定拠出年金を一部導入し、あわせて給付利率・据置利率を引き下げる。さらにすでに退職したOB世代の給付利率・据置利率も現役世代と同じ水準に引き下げるという踏み込んだ改定内容。OBの年金減額を実施したのはこれまでに日本航空(JAL)と近畿日本ツーリスト(KNT)など経営が悪化したごく一部の企業だけだが、レポート中で各社の退職給付債務の積立不足を記載したとおり、年金資産の運用悪化と業績低迷の中で過大な負担を抱える企業は他にもある。
GC重要事象が指摘されている「50.佐田建設」も厚生年金基金の代行部分の返上を計画しているが、今後こうした例が続出すると見られる。
三つ目の火種は金融機関の持ち合い株式売却の流れだ。 前期は「26.大豊建設」の株主から突然、主力銀行である三井住友銀行の名前が消え、取引先に動揺が走ったが、当中間期でも「15.安藤建設」の大株主から準主力の三菱東京UFJ銀行の名前が消えた。さらに「5.長谷工コーポレーション」でも準主力のみずほコーポレート銀行が議決権比率を半減させた。
全体的に持ち合い株は解消の方向に流れており、これらの動きがただちに金融機関の支援姿勢の後退を意味するものではないが、相手が業績不振企業となると話は別。銀行は数ある持ち合い先の中からなぜこれらの企業を選んだのか、今度の動向を注意深く見守る必要があるだろう。
