外来語で日本語ピンチ?では外国では?
外来語の日本語への言い換えを推進する国立国語研究所が、33語の言い換え案を発表した。外来語の言い換えは一昨年より国語研究所により行われており今回はその三回目。既に109語の言い換え案が発表されている。
これまでの言い換えでは「ノーマライゼーション→等生化」「ユビキタス→時空自在」など、判り難い外来語をさらに判り難い日本語に直しただけ、といった例もあり批判もあったが、今回の言い換え案を見る限りでは、自然な言い換えが出来ているように思える。
本コラムで紹介している『新聞・雑誌記事横断検索』をはじめとした「オンラインデータベース」は「オンライン」「データベース」それぞれが言い換え対象の外来語に選ばれていたが、言語が十分に普及しているという理由から言い換えがされない事となった。オンラインデータベースサービスの提供者として嬉しい限りである。
国立国語研究所によると「多くの人を対象とする新聞・放送等において、一般に意味の通り難い外来語・外国語が使用され受け手の配慮がされていない」その状況を改善する為、外来語の言い換えをするとされている。
しかし、外来語を言い換える背景には、むやみな外来語の受容による日本語の乱れ、無国籍化に対する不安感がある。
日本語に対する危機感を表した記事としては、加藤周一・井上ひさし両氏の対談記事で「日本語」の使われ方から「日本」自体についてまで語られ興味深い。
こうした外来語による日本語の乱れについては他の記事からも多く見つかるのだが、今回は特に海外における外来語の影響を調べてみたい。
外来語の海外での状況
『新聞・雑誌記事横断検索』を利用して外来語関連の記事を調べてみると、多くの国でこの問題に直面している事がわかる。
それは今年3月に「世界の<外来語>の諸相(標準化・活性化を目指す言語政策の多様性)」といった国際シンポジウムが開催された事からも判り、このシンポジウムでは、外来語による文化の発展と国語の混乱について国際的な視野から話された。
このシンポジウムで話された内容や、各国での外来語関連の記事をみると、それぞれの国で独自の問題と解決への模索を行っている事がわかる。
以下に各国での外来語対策状況をまとめてみた。
・ 中国
過去には言語の輸出国として日本や韓国に言葉を送り出していた中国だが、日本同様、大量に流れ込む英語への対応に頭を悩ませている。
中国では、従来外来語の意味を捉えて翻訳した言葉を使用していたが、今では音だけを使う音訳が使われやすい傾向にあるという。
よほどのことが無い限り、母国語を変更したり外来語を取り入れないとされていた中国だけにこの変化は大きい。
・ 韓国
韓国では「醇化(じゅんか)運動」と呼ばれる外来語の言い換えを運動を推進するなど、日本での国立国語研究所による母国語推進運動と似通った対応を実施している。
また「トレード」「スリム」といった言葉を母国語と合わせ動詞・形容詞として使う例も増えており、この点でも日本の現状に近い。
・ ドイツ
ドイツでも外来語、特に英語の影響を強く受けている。
ドイツ語の3、40万語の中に数百の英語が混じっているとされ、以前のアンケート調査によると回答者の半数以上の人がドイツ語に交え英語を使いすぎていると回答している。
こうした英語の使いすぎ理由は「英語表現により国際感覚が身につく」「英語の商品名がおしゃれな感じがする」といったもので、日本人とほぼ同じ感覚で英語が使われている。
外国語を排除する国々
上で紹介した国々では、母国語との兼ね合いに戸惑いながらも外来語を認めている部分もある。ところが、一切の外来語を認めないとする国もある。
・ フランス
1994年に「外国語排除法」が成立。英語の氾濫がフランス語の乱れにつながるという考えの下、法律で特定された外来語はフランス語に言い換える必要があり、違反者には最大1万フランもの罰金を設定している。
ところが法案成立後も外来語の流入は止まらず、置換えの強制や罰金は空文化した。
・ イラン
フランスと同様イランでも外来語排除の運動が行われた。外国語排除法は1996年に国会で採択されており、その法案では「イラン文化が認めたペルシャ語」の利用が官民問わず義務づけられている。その徹底ぶりは、商品名に外来語を使うことも許されていない程だ。
・ アイスランド
日本同様に孤島に位置するアイスランドでは、国語純正化の意識が過去から形成されており、その意識が現在も受け継がれている。
その為、自国語保護目的として言語局を設け外来語を全てアイスランド語に置き換える政策を推進している。
テレビ、インターネットを通じて様々な外来語が流れてくる中での活動は困難と思われるが、テクノロジー関連用語をアイスランド語の古い農業用語を用いて造語するなど母国語保護の為の努力がされている。
日本語の外来語としての流通
外来語の流入について紹介してきたが、逆に日本語が外来語として外国に流出しているケースもある。
例えば中国では「安全第一」「貿易振興」「技術開発」といった経済用語が中国語として根をおろしており、日中の経済協力が順調にされた地域から経済用語として普及したものと考えられる。
またこうした日本語の外来語化について「外国語になった日本語の事典(岩波書店)」でも紹介されている。
それによると、日本語は単語としては相当数の外来語化がなされており、以前では「浮世絵」「歌舞伎」「着物」「芸者」「茶の湯」といった日本の伝統文化に根付いた言葉が多く外来語化していた。
また最近では「酒」「醤油」「ラーメン」などの飲食物、「カラオケ」「やくざ」「弁当」といった大衆文化用語についても広まってきたようだ。
日本独自の母国語を守りつつ海外に浸透させられる事は、日本文化を海外に伝えることに繋がり大いに歓迎できることだ。ところが輸出される側、外来語を受け取る国々としては、母国語に新たな外来語が追加される事となる。こうした言語の輸出と母国語の保護は相手先の国を考えると矛盾した物に思える。それに加え自国文化の国際化を考えると、どの施策が正しいのか判断が難しい問題だ。
